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1週遅れのトップランナー

タイトルのことばに、軽蔑的でない用法があるとは知りませんでした。軽薄な態度でなく、熟慮と入念な準備のうえでうごきだすことを称するのだそうです。それはそれで別様にいえばいいのに。

ある会議でのこと、いわゆる「学生による授業評価」が話題になりました。

「わたしはいつもやってますよ。」
「わたしもです。」
「近辺の大学では、評価への対処ももとめられて、こういうことをする、と書いて出すんですよ。」
「もうこれは、やる、やらないではなくて、やるんです。」
「FDですから。」

多少の脚色をつけてありますが、だいたいの雰囲気はおわかりになるかと思います。オイラは、自分のことは棚にあげるとして(あはは)、これにはうんざり。授業評価をやって、それから何をどうしているの、が語られないからですし、端的にいって、それで学力があがっている、という成功例を見たことも聞いたこともがないからです。

たとえば、第一番目の項目に「授業はわかりやすかったですか」があります。5段階評価です(アンケートされる側としても面倒なことに、○×ではない)。しかし、はたして「わかりやす」い授業は、よい授業でしょうか。「わかりやす」くない授業は、非難されるべき劣悪授業でしょうか……。これははっきりとちがいますね。何の苦もなく大学の授業を理解できる人など、オイラの職場ではおなじ学年に10人もいないでしょう。あらゆる科目を、などといったら、当然のことながらかぎりなくゼロにちかい。むしろ、ちゃんと努力させる授業=むずかしい授業のほうがあってしかるべきというか、大半の授業の通常の姿ではないでしょうか。負荷をかける=ちゃんと努力させるのが教師のつとめなのですから、「わかりやす」くなくていいです。

あるいは、「板書は見やすかったですか」という項目もあります。これは聞くだけムダでしょうね。学期末のアンケートでたずねる項目かい?とつっこみを入れたいところでしょう。おわった授業で何をどうするの。「声は……」もおなじです。

さらには、「シラバスにそっておこなわれましたか」という項目が笑えます。そりゃぁ、授業内容は学生との契約ですから契約不履行は問題ですけど、どれもこれも15回分の授業内容の概要が山盛りで、「電話帳」と化したシラバスなど学生が読んでいると思いますか。時間割をうめること、授業の内容よりも授業の担当者でおおかたは選択してゆきます。

かくして評価の項目は、それでも善良な学生さんが多いので、悪くて3,良くて4か5、という感じになります。まぁ、たいていは4が基本になるでしょう。そういう評価に「いつもやってますよ」さんは、どういう解釈をなさるのでしょう。たしかに、もはや単純に「やる、やらない、ではな」いです。授業評価じたいにあきらかに問題があります。そして、「やってますよ」は何のアリバイにもなりません。そういうトーシロの言辞をふりまわすだけでは、語の本義で、1週遅れのトップランナーになってしまいます。

最初に勤務した短大で、オイラは3年間、ずっと授業評価アンケートをやっていました。点数がよければうれしかったですし、悪ければ(小心者だけに)おちこんだりしました。やれ、といわれればいまでも評価アンケートをやる科目はありますけど、一喜一憂してもしかたがないなぁと思いながらです。「授業評価」は何のためにするか、「授業改善」とはなぜ必要なのか、といえば、結局のところ、受講生の学力・理解力の向上のためでしょう。「評価」をやってもやらなくても、学力がつけばよいわけです。ただ、この「学力」ってのがなかなかはかりにくいのですけどね。すくなくとも、毎時毎時の学生さんの反応をたしかめ、理解しそこなっている点をフォローし、了解をとりながら、プレッシャをかけながら、授業をすすめてゆく、というラインにできるだけ忠実でありたい。「わからないのは授業のせい」とか、「授業評価の点数はよかったから」とか、おたがいに心理的な逃げ場をつくっていてはダメですよ。

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