入院記(印象にのこっていること):ICUの一夜
自分がICU(Intensive Care Unit, 集中治療室)のようなところへ入るなど、想像したことさえありませんでした。じっさい、前日の説明でも、ICUがあいていなければ病棟の個室へもどってくるという話や、また、手術室からは全身麻酔からさめた状態でかえってくるという解説もあり、目覚めた場所がICUと気づくまでしばらくの時間を要しました。オイラはどうやら麻酔の効きやすい体質なのかもしれません。
●めざめて最初に……
◇聞こえたことば
執刀医=主治医の先生の、「栗田さん、手術はおわりましたよ」の呼びかけでした。
◇浮かんだ光景(イメージ)
上の息子が卓球の試合でみせたガッツポーズ。生きている、とわかって目頭が熱くなりました。
◇発したことば
「つばを吐きたい」 \(^^:;)...
手術中は人工呼吸のための管が挿入されており、これをとりはずすと、入っていた異物を排出しようと、つばというか、痰というか、とにかく吐きだしたくなります。もうこれが不快でどうしようもないもので、結局のところ、ひと晩をつうじて苦しめられました。
おまけに、最初につばを吐こうとしてティシュに手を伸ばしたとき、妙な合いの手をいれられ、それへの拒絶を示すためにすこし急に首をふっってしまいました。それで、全体にクラクラ感がしてしまい、看護師さんや担当医の先生に反応できず、危険値シグナルをならす事態にも至りました。緊急でCT撮影をしたところ、問題なしという結論になって安心したですが、自分の身体にたいする違和感をこのときほどおそろしく思ったことはありません。
●眠らないICUでは眠れない。
ICUの看護師さんは交代制で、夜間はお一人が二人の患者を担当します。オイラの入っていたのは個室でなかったので、おとなりの方とはカーテン1枚で仕切られているだけでした。患者にはそれぞれに計器がつけられて、血圧や体温はもちろん、脈拍や酸素摂取量もディスプレイにうつしだされるしくみです。この数値が危険域に入ると、TVの医療ものドラマなどでも登場するあの危険値シグナルがひびくことになります。
おとなりとはカーテン1枚ですから、当然、おたがいのシグナル音は聞こえます。そして、どうもおとなりさんは痛みがつらいらしく、声をあげていたり、あるいはときに機器をはずしてしまったりしていました。そのたびに、シグナルが反応して看護師さんを呼びますから、なかなか眠ることができません。さらには、オイラには徐脈の傾向があるらしく、一再ならず、ようやく眠りに入りかけた瞬間に脈拍数の低下でシグナルを鳴らせてしまいました。
眠ろうとしただけなのに……。
さらに、右側の頭を切っており、そこから管がでていますから、基本的に、真上を向くか、左側頭部を下にするような寝方でした。この寝ている姿勢を変えるのも自力ではほとんどできず、そのたびに看護師さんのお世話になるです。2時間もおなじ姿勢でいますと、腰から背中にかけて痛みが襲ってくるので、看護師さん二人がかりで姿勢をかえてもらいます。眠れるはずがありません。
●びっくり
◇ポータブルのX線撮影機
はじめてみました。ベッド脇におかれた複数の機器のあいだぬって撮影ポジションを確保する技師の方の熟練の技に感心するとともに、こういうところでX線をあびたり、ちょっと不自然に頭をうごかしたりしてだいじょうぶだろうかと不安をおぼえてもいました。技師の方のタバコの匂いもきつかったな (^_^;) 病院は敷地内全面禁煙ですがね。
◇朝食あり
予想もしなかったことです。どうしますかとたずねられましたが、頭に管をさしたままでは起きあがりたくないし、どのみち食欲もまったくなかったので遠慮しました。でも、望んでいたら、どういう食べ方をしたのでしょうか。
◇ステイプラ
頭にさされた管をぬいたあと、担当医の先生が傷を縫うのにつかったのは「ホチキス」と呼ばれる道具でした。糸を予想していたのに、ガッチャリ、という音がしたものですから、ドッキリしたしだいです。退院前の抜糸のときに針をみましたけれど、こんなものが頭に刺さっていたのか、です。
たったひと晩、お世話になっただけですけれど、ICUは戦場のように感じました。看護師さんが休まるヒマはないようです。そのぶん、手術の前日にICU病棟の説明をしてくださった看護師さんがベッド脇にいらっしゃって、
「ぶじにもどってこられてよかったですね」
とことばをかけてくれたのは、とてもうれしく感じました。生命はこういうところでまもられているのですね。
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