イギリス史研究会第25回例会のご案内
幹事の方からご連絡をいただきながら、放置してしまいました。あまりご覧になる方もいらっしゃらないのでかまわないなどといっては、たんなる開き直りにすぎません。おそまきながら、登載させていただきます。なお、連絡先情報など、一部を削除してあります。
イギリス史研究会第25回目の例会を、下記の要領で開催いたします。ご多忙中とは存じますが、何卒ご出席賜りますようお願いいたします。今回は、イギリス社会史(多民族都市レスターの歴史と文化)を研究されている佐藤清隆氏にご報告をお願いしています。また、コメントは、社会思想史を中心に広くイギリス近現代史を研究されている光永雅明氏、そしてイギリス帝国史の視点から移入民や在英黒人の歴史研究に取り組んで来られた平田雅博氏にお願いいたしました。なお、第26回目の例会開催は、2012年3月(報告者:水野祥子氏、九州産業大学)を予定しています。そちらの方も奮ってご参加下さい。2012年3月例会の詳細については、追ってご案内させていただきます。
記
日時 12月17日(土)午後1時半 ~ 午後5時半(開始時刻にご注意ください。)
場所 青山学院大学 11号館 3階 1130教室
キャンパス内地図
http://www.aoyama.ac.jp/other/map/aoyama.html
キャンパスへのアクセス
http://www.aoyama.ac.jp/other/access/aoyama.html
報告者とテーマ
佐藤清隆氏(明治大学)
戦後イギリスにおけるインド系コミュニティとカースト制
——多民族都市レスターのシク教徒の事例から——
コメンテーター
光永雅明氏(神戸市立外国語大学)
平田雅博氏(青山学院大学)
参考文献:
◇「多民族都市レスターの歴史と文化——シク教徒の世界——」(『明治大学人文科学研究所紀要』第57号(2005年3月)
◇Mrs Jasvir Kaur Chohan: Life Story of A Sikh Woman and Her Identity, edited and written by Kiyotaka Sato, Tokyo: Research Centre for the History of Religious and Cultural Diversity (Meiji University), March 2011.
◇'Divisions among Sikh Communities in Britain and the Role of the Caste System: A Case Study of the Four Gurdwaras in Multi-Ethnic Leicester', Journal of Punjab Studies, vol. 19, no.1 (Spring 2012) [forthcoming].
世話役
平田雅博(青山学院大学)・坂下史(東京女子大学)
連絡先: 東京女子大学 現代教養学部
以下、佐藤清隆氏よりいただいた報告要旨です。ご参照下さい。
報告テーマ
戦後イギリスにおけるインド系コミュニティとカースト制
――多民族都市レスターのシク教徒の事例から――
私は、2001年度の在外研究以来、年に数回、イングランド中部にある多民族都市レスターを訪れ、そこに居住するさまざまな人たち(移民はもちろん、「受け入れ社会」の人びとも)から話を聞きながら、フィールド・ワークを続けてきている。その調査からは分かってきたことのひとつは、レスターの「民族・宗教関係がうまくいっている」という「好評判」(「多文化統合のかがり火」・「ヨーロッパにおける多文化社会の首都」など)を安易に鵜呑みにするのではなく、それを批判的に再考していくことの必要性である。
その際、私が注目したいのは「多様性」(Diversity)という言葉の中身である。レスターでは、この言葉は、通常、「民族・宗教関係がうまくいっている」レスターのイメージと重ね合されて、あるいはそれを促進していくためのキーワードとして、メディア、地元政治家、宗教的指導者などによって繰り返し使用されてきている。そして、そこにある前提は、各エスニシティ、各宗教をあたかもひとつの集団であるかのように考え、それらの関係が問題にされていることである。しかも、それらの関係が「良好」であることを、「寛容」と「調和」をキャッチフレーズに、あたかも現実そのものでもあるかもように繰り返し語られている。したがって、そこでは各エスニシティや各宗教間の関係のこうしたイメージを再考することはほとんど行われなくなっているのである。
このことに関連して、さらに問題なのは、各エスニシティや各宗教内の「多様性」やそのなかに孕まれている問題(必ずしも平等な関係とはいえない)がほとんど全くと言ってよいほど検討されていないことである。しかし、私には、この問題を明らかにすることによって、イギリスの多文化主義政策に孕まれている「陥穽」を浮き彫りにしていく手がかりが得られると考えられるのである。
本報告では、以上のような問題意識の下に、レスターのインド系コミュニティ(全人口の約30%)、そのなかでもとりわけシク・コミュニティの「多様性」に注目していきたい。考察の対象とするのは、宗教・社会・文化・政治など、彼らシク・コミュニティの「核」になっている「グルドワーラー」と呼ばれるシク寺院である。レスターでは、現在、9つのシク寺院(その一つは自らをグルドワーラーとは呼ばない)が存在するが、それらは、単にシク人口が増えてきたからというだけでなく、シク内部のカースト、宗派、政治などが複雑に絡み、分裂したり、あるいは他のシクとは交わらずに独自に創設されてきたものである。本報告は、これら9つのうち、4つのグルドワーラーの「分裂」の歴史を中心に据えて、いまでもインド本国だけでなく、世界中のインド系ディアスポラ世界に根強く残る「カースト制」との関連で考察し、在英シク・コミュニティの歴史も、「カースト制」の問題を抜きにして考えることが如何に難しいかということを問題提起することである。そして、それが戦後イギリス社会のなかでどのように再構築され、現在どのような問題を私たちに投げかけているのかを考えてみたい。
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