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いただきもの(医療と身体、宗教とジェンダ)

おとなりの国立大学法人におつとめの方からいただきました。先に博士論文をもとに上梓なさったネドベドの国の中世史研究をいただいた方とは違い、こちらはイギリス文学に関連し、以前にはマージェリ・ケンプの著作を発表なさった方です。

どのような社会であっても人びとは一定の死生観をいだき、それは出生や死にかかわる儀礼、日常的におこなわれる医療行為にかぎらず、さまざまな生活実践のなかに表象されます。現代を生きるわたしたちは過去の社会の表象を、のこされたモノをつかい、一つ一つの根拠をたしかめ、照らしあわせながら知ることができるでしょう。そうした作業をおもに絵画と文章についておこなった成果が本作品ではないかと思います。著者は文学をお得意となさっていますが、「医師キリスト」などは松本宣郎さんのお仕事などを想起させますし、内科医・外科医などは明示的にR・ポータに言及していて、歴史学にも充分に足を踏みいれていらっしゃるといえるでしょう。

すこしあとの時代を勉強している者としては、解剖と外科医についてぜひともタイバン処刑場の騒擾をひいてほしかったとか、病院で祈り癒されたと語る箇所で、それは事実なのか、あるいは、テキストの記述にとどまるのかが不分明であるとか、イスラーム経由にふれながらも「西洋中世医学」の地理的な範疇がいまひとつわからないとか、ちいさな疑問はないわけではありません。しかし、個人が体験するかのように描きだされたイメジにうながされながら、さて、ここでツッコミを入れてみよう、と思わせてくれる筆力を楽しめました。

ありがとうございました。

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久木田直江『医療と身体の図像学――宗教とジェンダーで読み解く西洋中世医学の文化史』(知泉書館)

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