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イギリス史研究会第34回例会のご案内

幹事の方からいただいたご連絡の一部を転載します。法制史と歴史学は興味深いテーマです。


イギリス史研究会第34回例会のご案内

イギリス史研究会第34回目の例会を下記の要領で開催いたします。今回は、中世イギリス社会における法と社会に関して、法制史学と歴史学との架橋という問題を意識しつつ研究されてきている北野かほる氏にご報告をお願いしています。ご多忙中とは存じますが、何卒ご出席賜りますようお願いいたします。なお、次回の開催は、イギリス女性史研究会との共催で、6月13日(土)を予定していますが、詳細については後日ご案内をさせていただきます。そちらの方も奮ってご参加願います。

日時  4月25日(土)午後2時 ~ 午後6時
場所  明治大学駿河台校舎 リバティ・タワー1084号室(8階)

報告者とテーマ
北野かほる氏(駒澤大学)
「中世後期の重罪私訴:学説と法理と実態」

世話役 新井由紀夫(お茶の水女子大学)・佐藤清隆(明治大学)

以下、北野かほる氏によるご報告の内容紹介です。ご参照下さい。

イギリス法史において、刑事法史はさほど注目される領域ではない。民事法史に較べて訴答過程が単純であるため(基本的に、初回審理で被告人の無罪訴答を受けた陪審審理に移行する)、訴答過程における法理の発達がほとんど見られないという理解(これは基本的に間違いではない)に基づくものであろう。ほとんどの教科書において、そもそも中世の刑事司法史が極簡略に扱われる。中世初期の終わり頃の刑事コモン・ロー手続の導入移行に展開した陪審起訴(正式起訴 indictment)による裁判と、中世後期に導入された、治安判事による認定で職権的に開始される裁判(後に略式起訴手続 summary procedure と呼ばれるようになる=中世には固有の名称はなかった)が簡単に触れられるのみで、コモン・ロー手続導入以前の~ということは別にアングロ・サクソン時代に限定されない~刑事(的)事件の裁判手続であった私訴(重罪私訴 appeal)は、おおむね、陪審起訴手続導入後しだいに利用されなくなっていったという趣旨の解説があるにとどまる。

 この観点から、裁判史料を利用する場合でも~歴史研究者のみならず法史研究者も、理由は異なるが、ほとんど裁判記録集 plea rolls を利用せずに専門研究を行っているが~、王座裁判所裁判記録集は、いわゆる刑事編 rex side が利用されるか、あるいはむしろ(陪審)起訴記録集 indictment rolls が利用されるに留まっている。しかし、重罪私訴による裁判はそもそも刑事編ではなくいわゆる民事編 plea side に収録されるものだし、(陪審)起訴記録集には、そもそも重罪私訴は収録されない。実は地方の未決監釈放裁判 jail delivery 記録には、陪審起訴と重罪私訴が混在したかたちで収録されているのだが、このレベルの裁判史料が扱われることはまずないため(これまで、この記録集を主要史料とした研究はない)、このこと自体ほとんど知られていない。こうした史料利用状況も、重罪私訴がいわば法史のさらには歴史の盲点となってきた理由の一端ではあるだろう。

 しかし実際には、中世後期の王座裁判所記録集だけを見ても、いわゆる民事編には、重罪私訴の記事が相当数見受けられる。それも、民事侵害 civil trespass の訴えに較べると比率は低いとは言え、一開廷期に一桁というほどの僅少さではない。換言すれば、陪審起訴の定着~日常化および民事侵害訴訟の発達(刑事侵害 criminal trespass として構成可能な事案のみならず、重罪 felony として構成可能な事案であっても、民事侵害訴訟として訴えの提起ができた)にもかかわらず、重罪私訴は実は衰退も死滅もしなかったのである。

 それはなぜか。という問いを発することは、容易でもあり自然でもある。しかし解を見いだすのは決して容易なことではない。そもそも注目されてこなかった、いわば空白のテーマであるだけに、調査と分析の方法に定番はない。報告者自身、民事編に死刑判決記事が出てくることに疑問を持って調査を手がけ、そこからいわば芋づる式にデータが増えるなかから、論点が見えてきた(まだすべて見えてきたと言い切れる状況にさえない)だけである。

 重罪私訴に基づく審理の過程、いわゆる裁判手続については、概略の像がわかってきているが、この詳細は別稿を準備中でもあり、また、裁判手続過程それ自体は、法史研究者にはそれなりに興味のあるテーマであっても、歴史研究者にはある意味実感の乏しい退屈なものであるかもしれないと想像する。今回の報告では、手続過程については、正式起訴と重罪私訴のフローチャートを呈示するに留め、重罪私訴について、現在見いだしつつある論点、すなわち、重罪私訴をめぐる刑事司法法務の実態は、どうやら犯罪類型ごとに違っていたらしいという点について、いくつかの事例を紹介しながら、管見的ではあるがより現実感の強そうな説明を試みることとしたい。

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