イギリス史研究会第38回例会案内
世話役のかたよりいただいた案内通知を一部修正のうえで転載します。
イギリス史研究会第38回例会のご案内
イギリス史研究会第38回目の例会を下記の要領で開催いたします。今回は、18〜19世紀イギリス文化史・社会史・デザイン史(特にマテリアルカルチャ、住居、職人、手仕事)の分野で研究を進められ、つい最近出版社アッシュゲイトから著書も刊行された真保晶子氏にご報告をお願いしています。また、コメンテーターには、英文学の専門ですが、ジョージ・オーウェル、ウィリアム・モリス、ジョン・ラスキンなどにも造詣が深く、多くの著作や翻訳のある川端康雄氏と18世紀イギリス経済史(特に流通)がご専門の道重一郎氏に引き受けていただきました。ご多忙中とは存じますが、何卒ご出席賜りますようお願い申し上げます。
なお、第39回目の例会は、6月頃の土曜日を予定していますが、詳細については後日改めでご案内をさせていただきます。そちらの方も奮ってご参加願います。何卒、宜しくお願いいたします。
また、3月5日(土)に、お茶の水女子大学文教育学部1号館1階第一会議室にて、午後2時より6時まで、「西洋中近世における書簡とコミュニケーション」研究会を開催いたします。当日は、岡崎敦さん(九州大学)に「西欧中世における「書簡」資料をめぐる諸問題 」と題しご報告いただき、高橋一樹さん(武蔵大学:日本中世史)および鶴島博和さん(熊本大学)にコメントいただく予定です。どうぞこちらもご参加ください。詳細については改めてご案内させていただきます。
記
日時 2月27日(土)午後2時 ~ 午後6時
会場 明治大学駿河台校舎リバティ・タワー1143番教室(14階)
報告者とテーマ
真保 晶子 氏(芝浦工業大学)
「工業化期イングランドと長期の物質文化(マテリアルカルチャー)-住居が介する時間と外界への交渉」
コメンテーター
川端 康雄 氏(日本女子大学)・道重 一郎 氏(東洋大学)
[関連業績]
Akiko Shimbo, Furniture-Makers and Consumers in England, 1754-1851: Design as Interaction (Ashgate, 2015). 本の詳細は:http://www.ashgate.com/isbn/9780754669289
真保晶子「ロンドンの家具会社(1840-50年代)と製造の理念 - ショールーム会計簿と広告の分析をもとに」、『経営史学』(経営史学会)、2015年、50巻1号、3-26ぺージ。
世話役 新井由紀夫(お茶の水女子大学)・佐藤清隆(明治大学)
連絡先: 佐藤清隆 文学部
以下、真保晶子氏によるご報告の内容紹介です。ご参照下さい。
「工業化期イングランドと長期の物質文化(マテリアルカルチャー)-住居が介する時間と外界への交渉」
真保晶子(芝浦工業大学システム理工学部環境システム学科)
産業革命の原動力としての18世紀イングランドの消費社会誕生へ注目を促したニール・マッケンドリックの研究(1982年)以降、消費の歴史は様々な領域・手法で発展をしてきた。衣食住の中でも、「住」生活に関する研究は2000年代に大きく進展をみせた。それまでの伝統的な装飾美術史の手法で、作品としての価値・様式・技術・材質などの変遷を説明することが主流であった家具に関する歴史研究を、流通と消費の視点から書き換えた新たな著作(クライヴ・エドワーズ(2005年)、マーガレット・ポンソンビー(2007年))が相次いでアッシュゲイトから出版された。また、同時期に見られた潮流、アマンダ・ヴィッカリらのプロジェクト(2001-2006年)による学際的な住宅・インテリア史研究も、ジェンダー、家族の領域から住居空間に対するアプローチを深めることに貢献した。
拙著 Furniture-Makers and Consumers in England, 1754-1851: Design as Interaction (Ashgate, 2015)の特色は、家具と住居に焦点を当てながら、これまでの生産・流通・消費に関する研究が十分注意を払ってこなかった製造者と消費者との関係に注目したことである。書簡、会計簿、デザインパターンブックや当時の刊行物、図像史料をもとに、これまでの研究が強調してきた社会的上位者を模倣することや、逆に自らが属する集団の秩序に適合するようなテイスト(美的趣味、判断)を選択するという枠組みには収まらない消費者の長期的かつ柔軟な行動が浮き上がってくる。
本研究は3つの点を手がかりに製造者と消費者の相互関係を検証する。第一にコミュニケーションの媒介となった当時刊行されたパターンブック、第二に生産者と消費者の議論と交渉によりデザインが決定される過程、第三として、店舗、商品の購入とサービスを通じた家具メーカーと顧客との関係の構築である。そこには、消費者が家族や製造者との相談を経て注文に至る過程、物の選択に関わる消費者同士の情報交換、様々なサービスを通した消費者と製造/小売者との日常の関係、転居・結婚・家族の病気や死など顧客のライフサイクルに伴う家具調度品およびサービスの購入、そして修理・レンタル・リサイクルも含まれる。これらの視点から、購入して終わる単なる消費財にとどまらない、人々が使うことによって意味を持ち得る物質文化の歴史が立ち現われてくる。
報告とコメントの後、それぞれの分野で「物」を通した歴史はどのような史料(文献、物以外にも)を用い、どのような方法で、いかなる新たな発見が可能になるかについても意見交換ができれば有意義となるであろう。文化史・社会史・デザイン史・ジェンダー史だけでなく、様々な領域で「物」へ注目することで新たな視点が得られるかもしれない。本報告がそのような議論のきっかけとなれば幸いである。
[報告者の関連業績]
Akiko Shimbo, Furniture-Makers and Consumers in England, 1754-1851: Design as Interaction (Ashgate, 2015). 真保晶子「ロンドンの家具会社(1840-50年代)と製造の理念-ショールーム会計簿と広告の分析をもとに」、『経営史学』(経営史学会)、2015年、50巻1号、3-26ぺージ。
真保晶子「図像史料のコンテクストを探る-18-19世紀イングランドのトレードカード(業務紹介広告)とパターンブック(デザイン見本)」、『史潮』(歴史学会)、2014年、75号、22-46ページ。
真保晶子「イングランドの家具・室内装飾パターンブック、1750-1850年-共有されたデザインと技術」、『デザイン理論』(意匠学会)、2013年、62号、27-40ページ。
真保晶子「消費者としての女性 ― 家具の購入における主導権とデザインへの参加、1770年―1850年」、伊藤航多・佐藤繭香・菅靖子(編)『欲ばりな女たち―近現代イギリス女性史論集』(彩流社、2013年)、第4章、129-164ページ。
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